記事一覧

第15回例会告知

第15回例会は

1月26日土曜日17時~
ECRR市民研究会-広島事務所

にて行います。

第14回例会報告

第14回例会報告

「ECRR研究会-広島」第14回例会が、2012年12月23日(日)午後2時から午後5時00分の間、広島市内哲野イサク事務所で開かれました。出席者は森本道人、網野沙羅、哲野イサクの3名でした。なお原田二三子さんがオブザーバー参加しました。

第14回例会からは第10章「被曝に伴うがんのリスク:第1部 初期の証拠」に入ります。研究報告者は森本道人でした。森本は特別なレジュメを用意しませんでしたが下記を参照資料として使い報告を進めました。

http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/ECRR_sankou_15.html
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/ECRR_sankou_16.html

第1節 ECRRリスクモデルの基礎

 森本はまず「フクシマ放射能危機」、「チェルノブイリ放射能危機」に先行して地球規模での核実験による地球規模での放射能降下物が各国で健康損傷を起こしていたこと、そしてこの健康損傷に関する研究がECRRの研究の出発点になっていることを報告しました。それに対してICRPの研究対象は徹頭徹尾広島・長崎原爆の生存者調査(LSS)であり、現在も基本的にはそうであり、またそれしかないことを報告しました。

 2003年ECRRが2003年勧告を出した後、フランスのIRSN(Institute de Radioprotection et de Sûreté Nucléaire:フランス放射線防護原子力安全研究所。原発推進政策を国家政策とするフランスの放射線防護シンクタンク。予算の80%以上がフランス政府予算でまかなわれている)が、ECRR2003年勧告を批判して「科学的基礎を説明することに失敗している」としたことに触れ、ECRR自身は自身の科学的基礎は、

「1.ヒトの疫学調査
 2.ヒト、動物、細胞についての数多くの研究(恐らく分子生物学的研究)
 3.細胞レベルの放射線と(細胞を構成する)分子との間の相互作用の性質に関する、物理化学及び生物学の知識」

においていると主張している、これに対してICRPの科学的基礎は徹頭徹尾核物理学だ、ここに大きな違いがあると報告しました。

 核実験は1959年から1963年の間にピークを迎え、地球規模で拡散した、それは誰が見ても深刻な影響を人類全体に与えた、それは人類が最初に経験した地球規模での拡散だった。最初の影響があらわれるのは1959年頃であるが、それまで核実験放射性降下物による人体への影響に関する系統的な研究は行われていなかった。またそれを抑圧しようという動きもあった。その代表的な例が、IAEAとWHOとの“合意”であった。(1959年5月8日、第12回世界保健総会において批准されて発効しました。英語原文はWHOのサイトで読めます。http://apps.who.int/gb/bd/PDF/bd47/EN/agreements-with-other-inter-en.pdfこの合意についてはECRR2010年勧告第5章で扱っているほか、最近では、ミシェル・フェルネックスら著『終わりのない惨劇』<竹内雅文訳 緑風出版 2012年3月31日 第1刷発行>で詳しく扱っています。 附録資料「国際原子力機関と世界保健機関との間の合意書」p206で合意書の日本語訳も参照できます)

 表舞台の平静さとは裏腹に裏舞台では核実験による放射能影響が人類全体に与える影響を懸念する動きがあり、それが1963年の『部分的核実験禁止条約』となった、森本はおおよそ以上のように報告しました。哲野はこの条約の正式名称は『大気圏内、宇宙空間及び水中における核兵器実験を禁止する条約 <Treaty Banning Nuclear Weapon Test in the Atmosphere, in outer Space and under Water>』であり、部分的核実験禁止条約という一般に流布している名称よりも『大気圏内核実験禁止条約』という略称の方がはるかにこの条約の本質とその効果を現している、と補足しました。

 ところが、この放射性降下物による影響を疫学的に科学研究できる最適地があった、それはイギリスだった。まずイギリス全体に1930年代にまでさかのぼれる死因に関する死亡登録制度が存在していること、イングランドとウエールズでは1974年以来実際的に役に立つ“がん発生”に関する登録制度が完備していること、またイングランドとウエールズではほぼ同一遺伝子や生活習慣をもつ人口集団が存在していること、降下物の核種別降下量に関するデータが存在しており、“がん発生”に関する疫学研究には最適の条件をもっていたことなどが上げられます。

 これら一連の研究で明らかになったことは、ICRPのリスクモデルに当てはめてみると、たとえばストロンチウム90に固定して調べたクリス・バスビーらの研究では、ICRPモデルには約300倍の誤差があること、一般的に言えば100倍から1000倍の誤差があると考えられる、と述べ、その原因はICRPモデルでは外部被曝と内部被曝はリスクに違いはないとしているのに対し、実際は内部被曝と外部被曝は同じ線量でもリスクは同じではなく、内部被曝がはるかに高いリスク(ICRPモデルに比べて100倍から1000倍)を持っていることに起因する、と森本は報告しました。

第2節 特異性(Specificity)

 第1節を受けて、第2節ではICRPがそのリスクモデルの基礎データとしている広島・長崎の生存者寿命調査(LSS)が内部被曝要因を一貫して否定している事に触れ、実際には内部被曝が発生していると考えざるを得ないデータが出ていることを森本は指摘しました。
たとえば、「最も低い被曝線量でそのような(被曝)影響が超線形被曝量応答として出現した」と第2節で指摘していることなどがそうです。(このECRRの指摘は沢田昭二の研究や土壌サンプルなどをさしています)また「ABCCは、LSSの中に原爆攻撃された町(要するに広島と長崎)における初期の白血病のデータを含めることに失敗し、また広島と長崎で放射性降下物が存在したことを報告しないという失敗を犯し、さらにABCCの究極的結論を歪曲することとなる全般的な病気発生率を報告していない失敗を犯している。」と第2節が指摘している点を捉えて、オブザーバーの原田さんから「初期の白血病のデータを含めることに失敗している」とはどういう意味か?と言う質問が出ました。哲野は「LSSが1950年1月現在生存している被曝者を対象としており、それ以前に死亡した被爆者のデータをLSSに含めていないことを指している」と答えました。「つまり1949年12月までに白血病で死亡した被爆者のデータがLSSに全く含まれていないので、LSSに基礎を置いたリスクモデルは信頼できないとECRRは指摘していることになる」これに対して原田さんは「最近福島で甲状腺がんが発生したことに対して、フクシマ放射能危機の影響ではない、もしそうだとすれば、発生が早すぎる、放射能の影響でがんが発生するのは5年後以降だと説明している、これについてはどうか?」と質問しました。これに対して哲野は「5年後発生説も結局ヒロシマのLSSが根拠になっている。しかしここで白血病の例でもわかるとおり、5年後にがんや白血病が発生したのではなく、データを5年後に取りはじめたに過ぎない。実際にはすでにがんや白血病が発生し、重篤な被曝者は統計を取り始める1950年1月までに死亡している。これらはすべて統計から除かれている。しかもがんや白血病が発生していることはすでにABCCの1947年1月にまとめられたABCC第1回全体報告(当時は非公開文書。現在はWeb上で公開されています)の第3部で報告されている」と答えさらに、「“がん発生5年後説”はイラク戦争で劣化ウラン弾で発生したイラクの被曝者にも適用され、ここで発生したがん、原爆ぶらぶら病に似た症状はすべて劣化ウラン弾のせいではないとされている。つまり同じ手口が使われている」と補足しました。

 森本が「結局ABCC=放影研のLSSに基礎を置く限り、放射線の影響は正しく評価されない」と報告して第14回例会を終了しました。

 たった2節進むのに3時間もかけていることに対しては、網野が「ECRR2010年勧告は専門家に向けて書かれている。専門家でない私たちがこれら内容を理解するには、背景となる知識や関連した知識を補いながら進むしかない。時間がかかるのはやむを得ない」と発言し、全員が同意しました。

 次回は引き続き第10章で第3節からはじめます。担当はこれも引き続き森本道人です。次回例会開催日は未定。決まり次第お知らせします。

第13回例会 報告

第13回例会報告

「ECRR研究会-広島」第13回例会が、2012年11月30日(金)午後8時から午後11時30分の間、広島市内哲野イサク事務所で開かれました。出席者は森本道人、網野沙羅、哲野イサクの3名でした。なお原田二三子さんがオブザーバー参加しました。

例会は毎月1回は実施すべきですが、10月もメンバーの都合が揃わず11月も辛うじて月末日にやっと開催という始末でした。しかし時間は情け容赦なく確実に流れていきます。

第13回例会のテーマはECRR2010年勧告第9章の後半部分、第9章の6.4節「細胞集団感受性の差異」から9章の終わりまでです。発表者は前回に引き続き哲野イサクでした。レジュメは次を使いました。
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/ECRR_sankou_14.html


「細胞集団感受性の差異」

これは同じ個体の中での細胞もやはり感受性の違いがあることを論じたか所です。たとえば人間はおよそ60兆個の細胞からできあがっていますが、60兆個がすべて同じ放射線感受性なのではなく、部位によって、また細胞の状況によっても感受性が違っているとします。
 たとえば60兆個の細胞は老化や死滅によって生じる補充のため、常にある一定部分細胞複製(有子分裂)します。細胞複製はある決まったプロセスで行われますが、そのプロセスの中の複製相(フェーズ)では、そうでないフェーズに比較すると約600倍も感受性が高くなるとしています。哲野は「近年の分子生物学研究の進歩からみて、個体の細胞は極めてダイナミックな動きをしており、それらと照らすとここに書いてあることは非常に納得できる。ICRPの言うように人間は、一定のインプット(被曝)をすれば、みな一様に一定のアウトプット(放射線影響)を示す、といったロボットみたいな存在なのではなく、一つの個体をとってみてもその個体内では非常にダイナミックで複雑な動きをしている。こうしてみるとICRPの支持する放射線医学は、医学全体の中で“ガラパゴス化”していることがよくわかる」と報告しました。

「集団内部と個体の感受性」

人種(モンゴロイド、ネグロイド、コーカサイド)による感受性の違い、集団(文化や地域などの違いによる集団)、性別、年齢、生理学的違い、などで放射線感受性は大きく違うことを論じた個所。これは表3が添付されヒトと動物実験によるほ乳類が例示されていますので一通り眺めました。また放射線感受性が高いヒトの中にはATM遺伝子を持っている場合もあることを考察しました。こうした点から見て、放射線防護の観点からは、実際には存在しない、平均的・抽象的な一般成人を対象にして被曝許容線量を決定すべきではなく、もっとも放射線感受性の高い個体(放射線弱者)を基準にして被曝許容線量を決定すべきであるとの指摘には全員が納得しました。

「ホルミシス応答」

さて問題のホルミシス応答です。ホルミシス応答は1978年ミズーリ大学のT.D.ラッキーが最初に指摘したこと、しかしこれは「少量の毒には有益な刺激効果がある」とするアルント・シュルツ(シュルツの法則)の焼き直しに過ぎないこと、ラッキーがホルミシス応答を発表して以来、世界のICRP派学者が勇み立ってこの説の宣伝に努めたこと、たとえば日本の電力中央研究所(電中研)などは、ラッキーの説を科学的に裏付けるため、1993年東京大学、放射線医学総合研究所(放医研)、京都大学、東北大学、大阪大学、広島大学、長崎大学、東邦大学など14大学に「放射線ホルミシス効果検証プロジェクト」として研究委託し金をばらまいたこと、など関連した調査報告を行いました。ECRRはホルミシス応答は存在するかも知れないが、放射線防護の観点からは考慮すべきではない、と述べています。

「放射線の生物学的効率に影響する因子」

放射線による生物に対する影響にはどんな因子がたらいているのだろうかを考察した節です。ICRPの学説によれば、放射線による影響(健康損傷)は電離エネルギー密度の関数として表現されている、と指摘しています。しかし放射線影響において細胞はそのような一方的に受動的な存在ではない、と述べ、放射線による影響因子はさまざまな因子があるとして、「がん」にについてその進展する因子を表9.5にその概要をまとめています。主要な因子は電離密度の増加、空間飛跡密度の増加、時間飛跡密度の増加(慢性内部被曝)、細胞複製速度増大、細胞周期中のフェーズ、修復効果の低下、複製抑制場の低下など7種類もあげており、ここでもICRPの単純な被曝線量(電離密度)の増加因子だけで健康影響を論ずる議論の一面性が明らかになってきています。

「セカンド・イベント理論」

ECRRは「セカンド・イベント」について「細胞複製期中の2回目のヒット」と定義しています。細胞が2回ヒットされる状況という理解よりも、細胞複製中のヒット、と理解した方が正確な理解だと思います。ここでは同じ細胞であっても複製中のヒットは非複製中のヒットに比べて600倍も感受性が高いことが最近の動物実験で確認されているとしています。一般に600倍なのかどうかは別として、細胞複製期には電離放射線への感受性が高くなるという考え方は最近の分子生物学で得られている知見とも合致し、極めて納得の行く議論です。そしてECRRはリスク増大をもたらす複数種類の内部被曝が存在する、と指摘しています。一つは不動の崩壊系列の核種による内部被曝(典型的にはストロンチウム90)、ふたつ目はミクロンまたはサブミクロン単位のホットパーティクル(典型的にはプルトニウム化合物)による被曝。これらの被曝は必然的にセカンド・イベントにならざるを得ません。

「がん発現に影響するその他の因子」

がんが細胞の突然変異による暴走だということについては現在異論のないところです。ところががんは、腫瘍の進展によっても起こるし、また腫瘍の進展を抑制する仕組み(免疫監視システム)の機能低下によっても起こります。分子生物学ではよくアクセルとブレーキに例えられますが、アクセルが暴走しても事故は起こるし、逆にブレーキが故障しても事故が起こります。ブレーキに相当するのが免疫監視システムですが、ICRPは「がん化」の因子にこの免疫監視システムの低下を全く考慮に入れていない、リスク因子としてとらえていないという現代分子生物学の成果から見ると全く前近代的なモデルをまだ保持しています。
「細胞分裂増殖場」についてもICRPは因子として考慮していません。細胞ががん化するにあたっては「細胞分裂増殖場」が必要だということがわかってきていますが、これは恐らくは細胞間コミュニケーションと関連のある現象であり、バイスタンダー効果が働いているのだろうとしています。たとえば喉頭がんで同じ部位(喉頭部)で同時多発的にがんが進展する現象(広域発がん)が見られますが、これは細胞間通信の異常(すなわちバイスタンダー効果)の例だろうとしています。この分野はもっと放射線医学から分子生物学へのアプローチが必要で更なる研究が必要とされると述べています。

「生化学的及び生物物理学的効果」

ICRPの学説では、放射線核種と組織の親和性は「臓器荷重」のみを問題としています。いわゆる核種と蓄積しやすい臓器(核種と臓器の親和性)の関係です。いわゆる「臓器標的説」です。しかし実際には核種と臓器の親和性は化学的観点から言うと、核種と臓器を構成する細胞の親和性にまで拡張されるべきである、とECRRは言います。たとえばストチウム90は骨と親和性があるのではなく、DNAリン酸塩基の骨格構造と親和性をもっていうるのであり、この性質を利用してリン酸ストロンチウム共沈殿物を使って溶液からDNAを取り除いている、としています。また核種が臓器と親和性を持つという考え方では「トロイの木馬的被曝」を見逃してしまうことになる、たとえばストロンチウム90は体の中でイットリウム90に変換する、イットリウム90はむしろ脳を構成する細胞と親和性を持っている、などの例です。局所被曝の場合もまたしかりです。

「元素転換」

電離エネルギーによるよりも元素転換で細胞が破壊される場合もある。これは炭素14、硫黄35、トリチウム(三重水素)の3つの核種で発生します。いずれも細胞の形成に必須の元素(水素、炭素、硫黄)の同位体で、体の中に取り込んでそれが細胞を構成する原子として使われた場合、元素転換して分子の結合を壊してしまう場合がある、この分野の研究は1980年に内部被曝効果の研究の一環として行われているが、その後研究が進んでいない、
ECRRも今後研究が必要と考えている、としています。現在ECRR研究会のメンバーも、関西電力の大飯原発や四国電力伊方発電所から大量のトリチウムが液体の形で放出されていることを知っており、この分野の研究がさらに進展することを期待しています。

「胎盤中の微粒子とゲノム信号輸送による胎児のへの被曝線量の増加」

胎児に対する放射線の影響が大きいことはよく知られていますが、胎児を守る母親の胎盤はどの程度の大きさの放射性物質の微粒子なら通してしまうだろうか、という問題です。これは「胎盤を通過することのできる微粒子の大きさはまだ決められていない」。しかし恐らくは1ミクロンの1/10程度の大きさなら通過するであろうと推測しています。このことは放射線から母体を特別に防護することの重要性と大きくかかわる問題です。また仮に胎盤を通過しなくても、ゲノム(遺伝子情報=遺伝のためのソフトウエア。あるいは遺伝を伝達するコンテンツ)の不安定の性質やバイスタンダー効果のために、胎児(特に受精から8週間の)に誤った情報が伝えられる可能性が大きいことが、チェルノブイリで被曝した人口集団の研究や動物実験の結果に見られている、としています。

 以上で第9章は終了しました。次回は第10章「被曝に伴うがんのリスク 第1部:初期の証拠」をテーマとします。担当は森本道人で12月23日に研究発表をすることになりました。ECRRが「初期の証拠」としているのは、1945年から始まり1960年初頭に最高潮を迎えた大気圏内核実験による世界的な被曝に見られる放射線被害の証拠を指しています。

第12回例会 9月22日 報告

「ECRR研究会-広島」第12回例会が、2012年9月22日(土)午後2時から午後4時30分の間、広島市内哲野イサク事務所で開かれました。出席者は森本道人、網野沙羅、哲野イサク、二見真吾の4名でした。なお原田二三子さんがオブザーバー参加しました。もともと第12回例会は7月27日に開催される予定でしたが、関西電力大飯原発再稼働問題、アメリカ軍(海兵隊)普天間基地に対するVM-22「オスプレイ」配備問題、それに伴う海兵隊岩国基地(広島から西へ約40km)搬送問題、さらに「8.6」(原爆記念日)が重なり、全員身動きが取れない状態で、延期に延期をしていたものです。

 今回例会では前回に引き続き「第9章 低線量被曝時の健康影響の検証」がテーマです。第9章の前半部分「メカニズム」はやっとこさっとこ前回第11回例会で終えましたので、今回からは後半部分の「モデル」に入ります。報告者は哲野イサクでした。レジュメは「<参考資料>ECRR勧告:欧州放射線リスク委員会 第9章 低線量被曝時の健康影響の検証:メカニズムとモデル その② そのモデル:2ヒット・キネティクス、ペトカウ応答、ブルラコバ応答(二相応答)、細胞集団感受性の差異、集団内部と個体の感受性」を使用しました。

 進め方は各節を比較的丁寧に理解していくというやり方だったため、思わぬ時間を取りました。しかし、この後半部分は極めて地味な内容ですが、低線量被曝(それは低線量内部被曝とほぼ同義です)の基礎的理解という意味では極めて大切な箇所という考え方で全員意見が一致し丁寧に進めることにしました。

 ICRPは線量とその応答(被曝と人体に対する影響)を直線しきい値なし仮説(LNT仮説)で説明していますが、実は低線量及び極低線量域では、直線ではなく様々な形の2次線形を取っていることを検証する箇所です。

 第9章6節の1「ICRP線形及び線形2次応答:2ヒット・キネティクス」では、異なる放射線の2回ヒットの場合、中線量・高線量分野では必ずしも直線応答関係にならないことはヒロシマ調査(LSS)でも確認できているがこれは低線量でも当てはまること、この場合最初の放射線によるヒットに加えて異なる放射線の2回目ヒットは、その線量の2乗に対して応答があり、従って直線ではなく、2次曲線を描くことを確認しました。

 ペトカウ応答(ペトカウ理論)は、すでに確認されて40年も経つのにICRPはいまだに線量・線量率理論を唱え、低線量長期間被曝は人体に害がない等と述べているが事実は逆であること。このペトカウ理論に正しさをジョン・ゴフマンはヒロシマ・データ(LSS)に基づいて再解析中であり、またロシアのブルラコバはこの理論から、低線量・極低線量分野では2相応答を示し、直線にはならないことを確認しました。バスビーは2相応答の理由についてブルラコバとは違う理由説明を提出していることも確認しました。

 とここまでやって2時間が時間切れになり、後は次回に持ち越しになりました。よく考えてみれば12回例会は、9章で取り上げているトピックのうち、「2ヒット・キネティクス」、「2相応答」(ブルラコバ応答)、「ペトカウ応答」の3つしか終わっていないことになります。延長戦を、の声もないではありませんでしたが、頭が疲れたということでここで終わり。残りのモデルは13回例会に持ち越しとなりました。次回はICRP系の学者が頻繁に取り上げる、「ホルミシス応答」をみっちりやろう、ということになりました。報告担当は引き続き哲野イサクです。

第12回例会

※日時変更

◆日時:7月27日(金)19:30~
◆場所:ECRR市民研究会―広島事務所

◆報告 第9章8節から 哲野イサク

なお、先月6月をもって、ECRR市民研究会-広島は1周年を迎えました。

第11回例会

◆日時 6月23日13時から
◆場所 ECRR市民研究会事務所

◆報告 オブザーバー原田様

第9章 7節まで

レジュメ
http://hiroshima-net.org/ecrr/shiryo/pdf/20120623_harada.pdf

◆参加者

哲野・久野・網野、原田さん

第10回例会

第10回例会

■日時:2012年5月27日 10時~12時半
■場所:広島市内 哲野事務所

■報告 第8章 担当 森本道人

今回の資料は以下
http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/ECRR_sankou_11.html


◆出席者

森本、久野、哲野、網野
オブザーバーは原田さんでした。

第9回例会

「ECRR研究会-広島」第9回例会が、2012年4月21日午後2時から午後4時30分の間、広島市内哲野イサク事務所で開かれました。出席者は森本道人、久野成章、網野沙羅、哲野イサクの4名でした。なお原田二三子さんがオブザーバー参加しました。

 第9回例会では、ECRR2010年勧告第7章の後半部分、「第9節 子孫における確率的影響:遺伝的障害」、「第10節 胎児における被ばく影響とその他の影響」、「第11節 全身的影響についてのICRPのリスク係数」「第12節 個々の組織と臓器についてのICRPのリスク係数」、「第13節 ある被ばく集団における致死ガン発生率の計算」の内容を検討し、議論を通じて学び認識を深めました。

 1.第7章は、第8章と第9章と共にECRR2010年勧告全体の基本中の基本であること。

 2.低線量被曝(健康損傷はほぼ内部被曝による)では、ICRPによるリスク評価は、1990年の実効線量概念の導入以来一貫して甘くなり続けており、ECRRのリスク評価との乖離が大きくなりつつあること。

 3.しかしECRRも便宜上実効線量概念を採用しており、リスク係数を調整することによって細胞レベルでの損傷を数値化しようとしているが十分に成功しているとは言い難いこと。基本的には、電離放射線の健康損傷を数値化する単位として現在使われている「シーベルト」に代わって、細胞レベルの損傷を表現できる単位の出現が待たれること。

 4.2000年代に入って次々と明らかになってきているチェルノブイリ事故による健康損傷に関する諸報告と照らし合わせてみる時、ECRRによるリスク係数自体、特にセシウム137による心臓への影響、も甘いのではないかとの疑念が出されたこと。

 などが確認されました。

 またICRP自体もその勧告(最新は2007年勧告)の内容と、研究室レベルの成果との間に相当の乖離が発生していることが報告されました。すなわち研究室レベルでは、電離放射線の影響は、臓器・器官レベルの損傷ではなく、細胞レベル(特に染色体が内包するゲノムー全遺伝情報)での損傷であることが、2000年代の研究によって解明されつつあり、従ってその健康損傷も「がん」「白血病」だけではなく、ほぼ全ての疾病にわたることが判明しているが、まだ「勧告レベル」に全く反映されていないことが報告されました。

 また、こうしたほぼ20年以前の主として疫学的研究に基づいてできあがっているICRP勧告に依拠した「フクシマ放射能危機」への対応に強い懸念が参加者から示されました。

 なお、第9回例会の報告者は哲野イサクでした。使用したレジメは下記です。

http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/fukushima/ECRR_sankou_10.html

次回第10回例会は5月下旬に開催する予定とし、「第8章 低線量における健康影響の確立:疫学」を検討します。報告は森本道人が担当します。

賛同にご協力ください。

みなさま

広島市長宛に変えよう!被曝なき世界へ市民アライアンスが
要請書を提出しようとしています。

http://hiroshima-net.org/cat-crew/

トップページに要請書文があります。

これに、ECRR市民研究会ー広島としても、賛同団体として名乗りをあげたいと思います。

理由は、環境省のページをみていただければお分かりと思います。
http://kouikishori.env.go.jp/howto/
この数値も、実際は数十ベクレルから数千ベクレルのものまで混じっており、平均化されたものです。

本来、100ベクレルは低レベル放射性廃棄物です。
食品やあらゆるものも、本来そう考えるべきなのです。
一度土壌が汚染されれば、自然循環し長期的に苦しむ地域が増えます。

東北の人たちのためにも、なるべく汚染されない汚染の低い国土を残しておかないと、彼らに綺麗な食べ物、保養など長期支援はできません。

またなにより、被曝は最小化をめざし、適切に対処・対応すべきであり被曝の拡散などもってのほかで許してはいけないと考えます。

お知り合いの団体、個人に呼びかけてくださればうれしいです。
団体の場合は団体名、代表者名、県、市をお知らせください。
個人的に賛同いただける方は名前、県、市をお知らせくださいますようお願いします。

宜しくお願いします。

第9回例会 第12章

第9回例会 第12章

■日時:2012年2月25日 10:00~(仮決め)
■場所:岡本非暴力平和研究所

■報告 第12章 担当 哲野イサク


この日、ファルージャの医師によるウラン劣化弾による被害報告講演会があるため、独立の章になっているウラン劣化弾について勉強することにした。せっかくの機会なので勉強し、講演を聞き、質問を積極的にし、理解に努めることとする。

※中止(流会)となりました。

哲野から、仕事等のため時間が取れず、発表を出来るほど資料を充分にまとめられないとの連絡、および、中止の依頼がありました。

哲野のメールを転載しておきます。

======
① このところ生活のための仕事(私の本業は哲野イサクの仕事ですが)が立て込んでおり、そのための打ち合わせや調査・原稿書きが続いております。そのため12章の研究が不十分であり、読み込んでいません。(12章は英語原文すらまともにまだ読んでいません)

② 何とか明日に間に合うようにと準備してきましたが、間に合いません。

③ 準備不足のまま報告をするのも傍ら申し訳なくまた私も本意ではありません。12章は私の宿題として次回以降に担当させていただきたくお願いする次第です。

④ 12章のテーマは「ウラン、ウラン劣化兵器( Uranium、Depleted Uranium Weapons )」です。ウラン同位体235は、原子力資料情報室も「 天然に存在する唯一の核分裂性放射能である」という通り、全ての人工放射性核種の産みの親であります。しかしながら、その人体に対する影響は他の核種に比べて研究が遅れていまし た。
世界的に見ても核施設や原子力発電所近辺でのウラン同位体核種の定期的な測定は義務づけられていません。しかしその毒性はもの凄いものです。α崩壊をし莫大な励起エネルギーを放出します。
体内に入ればどれほどの電離作用や励起現象を引き起こすかは、ECRR研 究会の皆さんはすぐに想像されるでしょう。しかし、ウラン核種の人体に対する影響はこれまで意図的に無視されてきたといういきさつがあります。勧告第12章は次のように述べています。

「・・・そのような地域で暮らしている住民の間にもたら されたウランの遺伝子毒性(genotoxicity)は、 もちろんそれを使用した軍隊よりも、それの使用を正式に承認した列国よりも、はるかに重大であると信じられている。疫学によって、実験室において、また理論的にも、害をもたらすその異常な性質の証拠が次々に示されているにもかかわらず、放射線防護ではどこにでも顔を出すICRPモデルが、その証拠を否定するため に、戦争において兵器としてその使用を続けることを許可するために使われている。大気圏核実験やチェルノブイリ原発事故、そして核施設周辺の小児白血病でそうであったのと同じく、その吸収線量はいかなる検 出可能な影響をもたらすにしても低すぎる、という演繹的な論法によってウランへの被ばくがもたらしている明らかな損害が否定されている。」

こうして、バルカン戦争(ユーゴ内戦)、第一次イラク戦争(湾岸戦争)、アフガン戦争、第二次イラク戦争で劣化ウラン兵器の広汎な被害が出現します。
第二次イラク戦争で使用された劣化ウランの量は 1700トンだったと勧告は報告していますが、その被害の実態は底が知れません。放射線生態学の観点からいえば、ウラン核種で北半球はすでに汚染されているという言い方もできます。私たちはもっと勉強・研究する必要があるでしょう。

⑤ 次回キチンとした報告を致しますので、何とぞ別機会をいただくようお願いいたします。

ページ移動